2021年10月26日 23:28
グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版
地中海、エーゲ海。美しい海と共に育った2人の青年が居た。ギリシャの海辺の町に暮らし、ジャックとエンゾは、それぞれ海に慣れ親しみ、普通の子供達より、速く泳ぎ深く潜れる才能は抜きん出ていた。このジャックの才能は、潜水士の父親譲りであるが、いつか、それを遥かに超えて、まるで魚のように長く潜り、しなやかに泳ぐ日がやって来る。
成長した2人は逞しく、精強な青年に育って居た。島で暮らしているエンゾは島の兄貴分のようになり、様々な場所に顔が利く。沿海に打ち上げたある沈没船の探索で死にそうになって居たダイバーを救出し、会社から1万ドルをせしめている。それで居て、豪遊するドラ息子と言う訳でもなくて、金を稼いで新車を買う訳でもなくて、ポンコツのビークルを塗り替えるのみだが、その性格は豪放磊落である。シチリア島にも顔が利く生粋のイタリア愛国人とは、彼やその母親のパスタ尽くしなど、エンゾの一族は個性豊かなイタリアン揃いだ。
エンゾは何でも出来てしまう。対する、ジャックは素潜りの一点突破なるも、水族館でイルカと戯れ、好きな水辺、清流の中に居る。ジャックは町を離れ、理由は潜水士の父親は、彼の目の前で、事故死しているからである。ともあれ、2人は水を、さざ波を、水に張り詰めた深海への好奇心を、特に才幹に貪欲なエンゾは、早々と自分のキャリアを潜水士として確立している。プロ選手である。
対する、ジャックはあたかも、深海の横たわる海からは離れるも、ダイビングの練習は、南米ペルー、アンデス山中の氷河の下に潜る、と言うかなりの荒業を平然とこなす孤高の天才肌を有している。恐らくこれはシークエンスとして南極のようにすら見える氷原と氷河に覆われた、眠りについている大地を象っており、保険員のジョアンナは、ジャックが個性派だと理解しつつ、人間離れした業と、端正なルックスに惹き付けられているようだ。彼は、アンデスにイタリアの旗を立てた。
ジョアンナはアメリカ人だが、ニューヨーク嫌いと言う変り種で、保険会社に勤めているが、余暇や恋愛を楽しむ余裕もあるようだが、時はアルカイダ(基地)による同時多発テロ以前だから、ツインタワーも街の象徴として健在だ。更には、人間が大量消費や文明社会の利益に浴している以上、高みを競い、甍を築き上げて行く事で、勝敗が決まる世界が、本家アメリカの新自由主義なのだろう。
ただ、人間とは競争は、生き延びる為には、誰しもが、浮浪者でさえ口喧嘩はするし、底辺で働きもするのだから、エリートが世界最強のアメリカ社会にて、頂点を目指し、日々謹直に働いているモチベーションが、近未来への加速度的エネルギーを生んでいるのだろうが、繰り返すが、ジョアンナはニューヨークが嫌いなのである。
そして、ジョアンナはジャックに惹かれるようにシチリア島にやって来て、素潜りの世界選手権大会にギャラリーとして、身内として、ニューヨーク本社には仕事と称して、バカンスとして楽しむ。ジャックを誘ったのは、万能のチャンピオン、エンゾであったが、この2人は幼馴染だし、兄貴分で肌を触れ合う間柄で、決して嫌な事はしない。友情にして、ジャック父の事故死を一緒に目撃していた、少年時代の苦い記憶に、逞しく育ったエンゾは、どこか、ほっとけない身内のように接し、その愛の深さは、ジャックも感じている。
大会で夜を彩るパーティで、場を盛り立てるためにピアノすら奏でるエンゾは、美酒のような男で、彼の万能振りを表すも、ハイライトは、プールにスーツのまま入り、底に立ちエンゾとジャックの2人で、水中にてシャンパンを酌み交わす与太であろうし、これは、素潜りを拠り所とした2人は如何に仲良しで、杯を交わす兄弟分のような関係にある。何しろ、リアル兄弟であれ、プールの底に張り付いてシャンパンを、水でかなり薄まったであろう酒を美味しそうに呑み干そうと出来るのは、互いに水の漢だからだろう。
ちなみに、プールをと遠巻きに眺めるゲスト達を尻目に、ジョアンナもプールの底辺で、彼ら2人がどんな事をして、栄光を語り合っているか、を水中グラスを付けて覗き見しようとする。これは、ジャックに想いを寄せる女性としては、愛くるしい動きだが、エンゾは懐深いちゃんとした兄貴肌として、多様な人々と打ち解けて居るが、エンゾもジョアンナも、天才肌にはあらざる、同類、を求める平凡さはある。
対する、ジャックは、エンゾですら持て余す事があるし、女性を愛する、抱くよりも海やイルカが大好きで、彼からは、魚、との渾名を付けられる始末である。だが、天才肌だから、そういう揶揄いはエンゾと言う多才、漢気の兄貴肌からは、父親の件もあって穏健そのもので、このエンゾの美点は素晴らしいと思う。
だが、とりもなおさず、エンゾは人間として同類を求めているし、ジョアンナにとって女性の幸せにジャックが関わりながらも、つるつる肌のヌルヌルのようなジャックの心を、フィジカルをすら、掴み損ねている。イルカと同じように巧みに水の中を波を砕いて泳ぎ回る事は出来ず、だから、ジャックの本質は、同類では無く、異質を、イルカに寄せるユニークな友情然り、まるで、海のために生まれて来た男のようなのだ。
ジョアンナの高みを競う甍の摩天楼が気に入らない感情に対する答えを持って居るのは、海面から深みに向い、徐々に暗くなって行く。多様な大小の魚も居なくなり、イルカだけがジャックと友愛を作る事が出来る。ハナから、海とは勝負や生命を懸けて鎬を削るような挑戦の場では無かったが、エンゾですら人間なのだから、大会に参加する各国代表、特に日の丸をあしらった日本選手はコミカルで笑えるが、同じく、映画「ティファニーで朝食を」のコミカルな日系人の隣人のようであり、時代柄や日本へのコミカルは、ポジティブな関心と、礼節、武士道などのエキゾチックながら、清々しい異文化を内包すべき、これも、共生の世界観と言う、水面の下に広がる大銀河の包容力、新たな生命が生まれ変わり、漂う生体系なのでは無いか。ジャックは全てを選び取るのであり、それ故に、孤高に成って行く切なさ、がある。。